研究系及び研究施設の現状 193
田 中 彰 治(助手)
A -1)専門領域:構造有機化学、分子スケールエレクトロニクス
A -2)研究課題:
a) シリコンナノテクノロジーとの融合を目指した大型分子機能システムの開発
A -3) 研究活動の概略と主な成果
a) 極限の機能集積度(1機能ユニット/平方ナノメータ)を有する「真に分子レベルの電子情報処理システム」の創出 に至る中長期目標として,単一の大型平面分子骨格内に多種多様な分子機能ユニットを定序配列に作り込むプレー ナー型モノシリック機能集積化分子の開発があげられる。その実現を目指して,本研究では可溶性・中分子量の機能 分子モジュールを各種開発し,理論予想や実験条件に応じてモジュールを選択・結合する大型分子構築法について 検討を進めている。一般に分子合成と半導体ナノテクノロジーとの融合を考慮した場合,機能分子群の組織化サイ ズとしては 10 nm× 10 nmから 100 nm × 100 nmが一応の数値目標と考えられる。本研究では,10 nm × 10 nm領域 までは単一大型分子で対応し,それ以上のサイズ領域においては超分子的な方法論を用いることとした。具体的な 研究課題は以下のとおり。
i) 電子構造制御用分子ブロックの開発:バルクレベルの電子素子の機能は半導体バンドのヘテロ接合に伴う現象を活用 するものであるが,分子スケールエレクトロニクスにおいてはバンド−分子軌道間,並びに分子軌道−分子軌道間のヘテロ 接合が機能源と考えられる。その実験的検討を系統的に遂行するための分子開発として,フロンティア軌道準位を広範に 変化させた一連の分子ブロック群の開発を進めている。本年度は,各ブロックを鎖状高分子化した場合の電子構造につい て九大・有機化学基礎研究センター理論グループとの共同研究を行った。 [J. Phys. Chem. B, in press]
ii) 被覆型分子ワイヤーブロックの開発:パイ共役分子鎖内のキャリアー移動について安定性・信頼性を確保するため,分 子鎖に絶縁層を付与する研究が進展している。本研究では,絶縁層部の配置や構造における欠陥を極限まで抑止するた め,絶縁部を共有結合で強固に固定した分子電線(分子エナメル線)の逐次合成について検討を行っている。現在までに, 鎖長 1∼ 10 nmまでのブロックの合成に成功している。
iii) 分子ジャンクションブロックの開発:分子鎖を格子状に精密配列するための分子ジャンクション部位の新規合成を行っ た。現在,大型鎖状分子のラダー化について検討を行っている。
iv) 分子アンカーブロックの開発:各種金属や半導体基板上に機能分子系を配置・固定化するためのアンカー分子ブロック として,共有結合タイプ,水素結合タイプ,及び配位結合タイプのものを新規合成した。
v) 基板上における分子組織化法の新規開発:各種の構造修飾を行った鎖状分子の基板上での構造特性を系統的に解明 するため,物質・材料研究機構ナノマテリアル研究グループとの共同研究を進めている。本年度は,アルキル鎖や絶縁被覆 部位を有する鎖状分子について高分解能S T M計測を行い,その実空間像から基板上での分子構造と自己組織化能との 相関について明らかにした。そのフィードバックとして,基板上で特異的に機能しうる分子認識システムの新規開発を進め ている。
194 研究系及び研究施設の現状 B -2) 国際会議のプロシーディングス
S. TANAKA and Y. YAMASHITA, “Novel Synthetic Approach to 5-10 nm Long Functionalized Oligothiophenes,” Synth. Met. 119, 67 (2001).
S. TANAKA and Y. YAMASHITA, “Novel Synthetic Approaches to Multifunctional π-Conjugated Oligomers for Molecular Scale Electronics,” Trans. Mater. Res. Soc. Jpn. 26, 739 (2001).
B -4) 招待講演
田中彰治 , 「自己組織化能を有する大型分子の設計・開発」, 第 2回 宇宙環境利用推進センター・ナノ構造体の自己組織 化研究会 , 東京 , 2001 年 9月 .
B -6) 学会および社会的活動 学会の組織委員
分子研分子物質開発研究センター・特別シンポジウム「分子スケールエレクトロニクスにおける新規分子物質開発」主催 者 (1998).
応用物理学会・日本化学会合同シンポジウム「21世紀の分子エレクトロニクス研究の展望と課題―分子設計・合成・ デバイスからコンピュータへ―」日本化学会側準備・運営担当(2000).
第 12回日本MRS学術シンポジウム:セッション H「単一電子デバイス・マテリアルの開発最前線 ∼分子系・ナノ固体系 の単一電子デバイス∼」共同チェア (2000).
First International Conference on Molecular Electronics and Bioelectronics, 組織委員 (2001).
C ) 研究活動の課題と展望
本研究は「最も狭義の分子エレクトロニクス」の立場をとるものであり,システムの全構成分子の各々に対しユニークなアドレ スと電子機能を割り振ることを前提とした分子開発を進めている。そのための要素技術は分子の高次組織化法であるが,こ の課題に関し現在主流となっている分子設計戦略は,合成簡便な低分子ブロックベースの超分子アーキテクチャである。し かし,D NAに代表される生体情報処理システムの主幹をなす分子物質系が「各種機能ユニットが共有結合により定序配列 に組み込まれた大型分子,並びにそれら大型分子の超構造体」であることを考えると,分子エレクトロニクスにおける大規模・ 素子集積化においても大型分子が根幹構成ユニットとなる可能性は大であると考えている。一般に合成に多大な労力が必 要となる大型分子ブロックの新規開発ではあるが,分子開発者として挑戦する魅力は多々あるものと考えている。